宮城県大崎市「ジビエの郷づくりについて」
大崎市は、総面積796.81平方キロメートル、人口は令和7年11月1日時点で120,517人であり、平成18年3月31日に1市6町が合併して誕生した。宮城県の北西部に位置し、ラムサール条約湿地である「蕪栗沼・周辺水田」および「化女沼」をはじめ、市西部の山岳地帯の荒雄岳を源とする江合川、船形連峰を源とする鳴瀬川の二つの大きな河川が西から東に流れている。また、平成23年11月3日に小山市と災害時相互応援協定を提携している。
今回は大崎市で取り入れている「ジビエの郷づくり」について視察を行った。ジビエとはフランス語のジビエ(gibier)に由来し、食材となる野生鳥獣の食肉のことを意味する。現在、全国的にもシカやイノシシによる農作物被害が大きな問題となっており、捕獲が進められるとともに、ジビエとしての利用も広まっている。イノシシジビエについては大崎市が東北初の施設運営を行い、令和6年4月27日から市内3か所の道の駅にて販売を開始している。
ジビエ事業の取り組みに至った経緯には有害鳥獣の問題があり、特にイノシシの増加がある。岩出山地域にて年々イノシシの捕獲数が増加し、令和元年度は278頭だったが、令和2年度は690頭となり約2.5倍に拡大。また、捕獲イノシシを廃棄物として処理するため主に焼却処分していた西部クリーンセンターが令和4年3月に閉鎖することとなり、処分場所の課題が生じていた。さらに、岩出山地域の小学校再編に伴い旧真山小学校が閉校となり、跡地利用検討委員会を組織し、若者の移住・定住を図ること、生活基盤を確立させていくことを課題と捉え、利活用を検討していた。このような課題解決のため、従来の有害鳥獣対策として捕獲対策、侵入防止対策、地域ぐるみ環境対策の3本柱に加え、捕獲鳥獣を地域資源(ジビエ)として利用し、地域の所得に変えるような有害鳥獣をマイナスの存在からプラスに変える取り組みとしてイノシシのジビエ事業が始まった。
ジビエ施設はジビエの処理加工・出荷を行う処理加工施設と、有害鳥獣の個体処理を行う減容化施設がある。初めに処理加工施設では、衛生管理の専門の研修を受けたジビエハンターがジビエ利用可能な個体を搬入し、洗浄、皮はぎ、解体、熟成、精肉、冷凍保存、出荷まで行うことができる。衛生管理については、豚熱対策として国の「豚熱感染確認区域におけるジビエ利用の手引き」に基づき全個体の豚熱遺伝子検査を行い、併せて放射能対策として放射能検査も実施し、問題のない個体のみを利用している。受け入れ実績は令和6年度が144頭、令和7年度は11月12日時点で90頭である。また、加工後は道の駅や飲食店、宿泊施設等に出荷しており、市内3か所のジビエ施設である道の駅では、ロース、切り落し、ひき肉の精肉として販売している。次に、減容化施設では、イノシシの状態が良くないもので、ジビエとして利用できない場合に、おがくずの入った減容化処理装置に搬入し、約60℃でおがくずの常在菌により、水と二酸化炭素に分解処理をしており、処理装置1基でイノシシ約50キログラムの個体6頭を概ね5日間で処理することが可能である。
その他の取り組みとして加工や処理だけでなくブランド化や販売拡大があり、各イベントへの参加や加工品の開発、TシャツやのぼりなどのPR物品の製作など精力的に行っている。また、学校給食への提供に向けた試食会の実施や、ふるさと納税の返礼品、ペットフードや革製品製作などの取り組みも今後予定しているとのことだった。
大崎市の取り組みは、増加するイノシシ問題や廃校問題の解消に取り組むだけでなく、新たに特産品としてブランド化や地域住民の食文化への定着を目指す対内的・対外的な一面も含む取り組みとして、大変参考になる事例であった。
岩手県北上市「北上市立工科大学(仮称)の設置について」
北上市は、総面積437.55平方キロメートル、人口は令和7年10日末時点で90,657人となっている。岩手県の中央部、北上盆地のほとんど中央に位置し、北上川と和賀川が合流する自然の恵み豊かであり、古くから交通の要衝として栄え、物資の往来も盛んな地域である。このような宿場町としての環境が人々を受け入れる「おもてなし」の風土を育み、平成3年に旧北上市、和賀町、江釣子村の3市町村合併により、現在の北上市が誕生した。
今回は北上市で取り組んでいる「北上市立工科大学(仮称)の設置」について視察を行った。北上市では昭和57年に北上地域大学設置期成同盟会が設立された。当時は全国的に大学設置などの投資も盛んとなっていたことで、大学誘致・設置の機運が高まっていた。しかしバブル崩壊後、経済が急激に冷え込み民間の投資意欲は減退、自治体の税収も下降線を辿ることとなった。本会は平成13年度の総会を最後に休止、平成17年度に解散している。
大学設置の背景には、北上市近未来政策研究所(北上市が直面する課題に対して徹底的な調査・研究を行い、当該課題を解決するための政策提言を行う内部組織)が令和3年度に大学等高等教育機関設置のあり方に関する研究を実施。新しいまちづくりを進めるうえで、課題解決の手段の一手として大学設置が検討された。令和4年度に研究所の研究を踏まえ、北上市は大学等設置の可能性を探るため企業向け調査などを実施。令和5年度には高校生向けに大学設置に関するアンケート調査などを実施し、令和3年度から令和5年度までの調査研究の結果を基に、令和6年度に北上市立大学(仮称)基本構想を策定した。
北上市立工科大学(仮称)が描く大学像では、5つの特色がある。1つ目は世界標準の教育と人材育成である。海外協定大学との交換留学や教員の相互派遣を推進、全国や海外から学生が集まる開かれた大学を検討している。2つ目は創造性の形成である。学生自らが能動的に考え学びに向かう、「アクティブラーニング」により、学び続ける力や変化に対応できる実践的な能力の育成を検討している。3つ目は独自性である。新設だからこそ、学長のリーダーシップにより、組織運営や教務運営の実行・点検・修正・評価のプロセスを実行し、スピーディな改善の実施を検討している。4つ目は、DX化の推進である。教育や研究のDX化により教育・研究の質の向上、運営のDXにより数値データを基に議論する文化を醸成し、働き方改革の促進を検討している。5つ目は地域連携・貢献である。企業等と共同で教育カリキュラム(インターンシッププログラムなど)の企画・実施や、地域全体を「キャンパス」「学びの場」と捉え、市民・団体との協働・連携・ボランティア活動の推進を検討している。
大学設置をまちづくりの一手として捉える目的には、「うきうき・わくわくするまち」にすることがある。北上市では令和32年を目途に人口減少や、年間消費額、域内生産額の減少が見込まれている。大学設置による効果は多方面への波及が期待でき、例として(1)まちを歩く人が増える、(2)都市拠点のシンボルの創出、(3)地域や企業の実際の課題をテーマにした教育・研究などが挙げられる。また、大学キャンパスを北上駅西側の市街地再開発が予定されている、まちなかに立地させることで、まちのにぎわいや交流・関係人口の増加や、地域や企業と学生が密に関わり、企業の人材確保の機会増加などにつながることが期待されている。なお、第307回10月臨時会議において、本件に関わる補正予算が僅差で否決されており、事業の再検討が必要になっている。
北上市の取り組みは、人材確保の機会増加や、まちなかの活気回復だけでなく、交流・関係人口の増加につながるまちづくり施策として、大変参考になる事例であった。
秋田県大仙市「大仙教育メソッド及び学力向上について」
大仙市は、総面積866.79平方キロメートル、人口は令和7年10月末時点で72,556人となっている。秋田県の中央部に位置し、東の奥羽山脈と西の出羽丘陵に囲まれ、雄物川と玉川流域で栄えた舟運や鉱山の開発、新田開発など独自の文化と産業を育むとともに、秋田新幹線や秋田自車道など交通の要所として人々の交流のつなぎめとなっている。また、毎年8月最終土曜日に開催される日本最高峰といわれる全国花火競技大会「大曲の花火」があり、花火のまちとしても知られている。
今回は大仙市で取り組んでいる「大仙教育メソッド及び学力向上」について視察を行った。大仙市では、「生きる力を育み、社会を支える創造力あふれる人づくり」を教育目標とし、(1)豊かな心と健康な体を育む学校づくり、(2)主体的でグローバルな学びを進める学校づくり、(3)家庭・地域と一体となった開かれた学校づくりを教育大網としている。また、「地域活性化に寄与できるこどもの育成」を育成像として掲げ、中学校区単位における特色ある取り組みの一層の推進を行う手法として、(1)基礎となる力、(2)学ぶ力、(3)活かす力の3つから構成される大仙教育メソッドを用いており、「共・創・考・開」を柱とした取り組みを行っている。
まず、「共」に支え合う力の育成の取り組みとして、(1)ふるさと教育の推進、(2)学校生活支援の充実、(3)教育相談体制の整備と相談活動の充実がある。(1)ふるさと教育の推進では、大網引きぐみ編み体験やそば打ち体験など、各校により特色ある事業に取り組んでいる。
次に「創」造的に生き抜く力の育成の取り組みとして、(1)キャリア教育の推進、(2)国際理解・国際交流活動の推進、(3)生徒会活動の連携、(4)豊かな心・想像力を育む教育の充実がある。(1)キャリア教育の推進では、農業体験や企業体験を通して夢や志をもち、その実現のために意欲的に努力する児童生徒の育成を行うとともに、参加、体験、貢献に応じて獲得ポイントを設定し、獲得ポイントによって教育長や市長表賞を実施している。
また、「考」え生かす力の育成の取り組みとして、(1)学ぶ意欲を高める指導の充実、(2)学力・心力・体力を高める学びの創造、(3)学習活動への支援がある。(2)学力・心力・体力を高める学びの創造では、ICTの活用による大型ディスプレイや電子黒板の整備、タブレットを利用したプログラミング学習により個別最適な学びの充実を図るとともに、校務のICT化による教育の質の向上や教職員の業務負担軽減に取り組んでいる。
最後に、「開」き、信頼される学校の取り組みとして、(1)開かれた学校づくり、(2)学校訪問の実施、(3)教職員研修の充実、(4)教職員ネットワークの活用がある。(1)開かれた学校づくりでは、地域住民と連携して避難所開設訓練の実施や、東日本大震災被災地との交流など、学校間交流、地域や関係機関との連携を図り諸課題に対応し、信頼される学校づくりに取り組んでいる。
これら取り組みの成果として令和6年度全国学力・学習状況調査結果では、「自己有用感、規範意識等」、「主体的・対話的で深い学びの経験」、「地域や社会に関わる活動の状況等」の各項目において全国平均を上回っていた。中でも「記述式問題の無回答率の状況」では、小学6年生、中学3年生とも全国平均を大きく下回っていたことから、粘り強く問題に取り組む姿勢が育成されていることが分かる。また、学校質問紙の教育課程の項目で、小学校と中学校の教育課程の接続や共通の目標の設定などを「よく行った」、「どちらかといえば行った」と回答した割合は全国、県と比較し上回っていることから、効果的な学校間での連携が行われており、大仙教育メソッドが効力を発揮していることがうかがえる。大仙市の取り組みは、人口減少や少子高齢化の時代のなかで、総合的な学力を育む学校教育の施策として、大変参考になる事例であった。