鳥取県「手話言語条例制定後の取り組みについて」
1鳥取県の概要
鳥取県は日本海側に面した山陰地方に位置し、総面積 3507平方キロメートル、人口は約54万6千人である。平野部では稲作、中山間地と砂丘地帯では野菜や果樹の栽培、山間地域では畜産と、地理条件に応じた多様な農業が営まれているほか、高規格道路の整備と積極的な企業誘致により、京阪神に本社を置く企業などの進出も進んでいる。
2手話言語条例制定後の取り組みについて
現在612自治体で制定されている手話言語条例(手話を言語として認めた条例)であるが、全国で初めて制定したのは鳥取県(平成25年10月可決)である。鳥取県手話言語条例の特徴としては、手話を言語として認め、手話が使いやすい環境整備を推進することや、県民、事業者、ろう者、行政など関係機関がそれぞれ役割を担い、協働して取り組みを推進すること、福祉分野だけではなく、教育・民間・行政などの幅広い取り組みを推進することなどが盛り込まれている事である。また、この条例を実行するために、条例の制定と同時に普及啓発及び環境整備の予算を当時の議会で成立させた。聴覚障がい者関係の様々な施策を実行するため、現在の予算規模は制定当時と比べ約4倍の規模となっている。
条例で外部機関を設置することとしている事に基づき、「鳥取県手話施策推進協議会」という県の附属機関を設置しており、役割としては手話を使いやすい環境を整備するために必要な施策について定める際や、条例の施行に関する重要事項(手話の普及に関する予算要求など)について、知事に意見・提案することであるという。また、継続的に手話施策を推進することを目的に「鳥取県手話言語施策推進計画」を定めている。平成27年度から令和5年度までは第1期計画として実施していたが、現在は一部を改正して第2期目の計画を実施している。計画としては長いものではあるが、計画期間にかかわらず、改正が必要と認められる場合は、随時内容を見直し、事業を実施しているとの事であった。この計画を通して、ろう者と聞こえる人が互いの個性・人格を尊重する共生社会の実現を目指している。
その他に手話言語条例制定後に実施している事としては、知事定例記者会見への手話通訳者配置(全国初)・県が開催するイベントや講演会等への手話通訳者の派遣といった、公の場での手話の普及や、ろう者が手話で県内の観光地を案内する手話観光ガイド、県民向けのミニ手話学習の開催、企業等の手話学習会への支援といった職場や地域での手話言語の普及に向けた取り組みも行っている。また、学校でも手話にふれる・学ぶ機会が多く設けられており、例えば、鳥取県内の小学校新1年生には手話ハンドブックの配布がある他、授業の中で手話を学ぶ取り組みや、動画で手話を学び、力試しができる小学生向け手話検定「手話チャレ」、小・中・高校生が手話ダンスを少しずつ担当し、つなぎ合わせて1曲のダンス動画を作成する「手話のWA~ダンスでつながる手話の仲間プロジェクト~」等、手話が特別なものではなく、身近な言語としてとらえられるような取り組みが多く実施されていた。現場の子供たちの様子として、ろう者とのコミュニケーションをする意欲もみられたとの話であった。ただ、鳥取県としては、学校、職場、普段の生活でも手話言語を目にし、学ぶ機会も増えているが、現在もまだその途上であるため、法制定により一層の手話施策の充実を図っていく必要があると考えているとの事であった。
今回の視察を通し、手話言語を普及させるためには、手話言語条例を制定するだけでなく、継続的に手話施策を推進するための多様な取り組みが必要であると感じた。小山市でも手話言語を普及させるにあたり、様々な手話施策を行っている鳥取県の事例は、大変参考になるものであった。
兵庫県たつの市「敬老選べるギフト事業について」
1たつの市の概要
たつの市は兵庫県西南部に位置し、総面積210.87平方キロメートル、人口は約7万4千人である。江戸時代には脇坂藩の城下町であったことから今も武家屋敷や醤油蔵の街並みが残り、皮革製品や醤油、手延素麵の生産が盛んである。姫路市のベッドタウンとしての性格を持つ。
2敬老選べるギフト事業について
たつの市でも「敬老選べるギフト事業」が始まる前は、たつの市敬老会として参加型の事業で実施をしていたが、20%程度で推移する低い参加率や、今後高齢者数が増加することに伴い、大規模の会場確保が難しいことが懸念されることから、令和4年度から敬老会を廃止することになった。そして新しい敬老事業として実施することにしたのが「敬老選べるギフト事業」との事であった。
この事業は、数え年75歳以上の方に、地元の産品やサービスなどをまとめた敬老選べるギフトカタログをお送りし、お好みの一品を選んでいただき、郵送でご自宅にお送りするといった事業である。カタログギフトの内容は、そうめんや醤油をはじめとするたつの市の名産物の他、検診受診券や写真館での記念撮影、訪問ヘアカットサービスなど多岐にわたる。また、カタログギフトの申込み率は、令和6年度で97.0%であり、多くの高齢者の方が申込みしているとのことであった。申込みに関しては、基本的には申込用紙を郵送していただく方法としているが、電話やファクシミリ等でも、柔軟に受付しているという。電子媒体での申込みは、申込人数が多く多岐にわたる申込方法だと対応しきれない可能性があるため、現状対応の予定はないとの事であった。また、申込用紙には、申込者が意見を書くことができるご意見欄を設けており、令和6年度には972人もの方に意見を記入いただいたという。意見をいただいた方のうち、9割以上の方が敬老えらべるギフトカタログに好意的な意見をもっており、ご意見の一例としては「なかなか敬老会には参加できないのでありがたい」や「地域の集まる場において、えらべるギフトが話題になっていた」、「地元の素晴らしい商品を再確認した」といった声であったという。その半面、ごく少数ではあるが否定的な意見もあり、ほとんどが「商品券や現金のほうがいい」という内容だという。
カタログギフトの品物の取扱い事業者には資格要件を設けており、「市内で生産、製造、加工、販売、サービスを行う者」や「本社、本店、支店、営業所又は工場が市内にある企業、団体又は個人業者で1年以上継続して同一の事業を営んでいるもの」等と、地元事業者に貢献できるシステムになっている。敬老事業の検討の際、カタログギフトではなく商品券を渡す案もあったが、地元経済の活性化を考え、地元の商品やサービスをカタログギフトにまとめた本事業としたとの事であった。敬老えらべるギフト事業を導入したことにより、地域経済循環効果をはじめ、地域の魅力再発見や家族・地域交流の促進といった事業効果を感じているという。今後の課題としては、財源の確保や物価の高騰に伴うサービス内容の維持、カタログギフトの飽きられない工夫の検討があげられるとの事であった。
過去に実施していた敬老会の参加が20%程度であったのに対し、敬老えらべるカタログギフト事業となってから申込率が97%となったことを伺い、対象の高齢者が平等にお祝いを受けられる敬老えらべるギフト事業は、小山市でも参考にすべきと感じた。今後、小山市も高齢化が進み、たつの市と同様に敬老会に対して様々な課題に直面することが想定されることから、今回調査したたつの市の事例は、大変参考になるものであった。
兵庫県伊丹市「安全・安心見守りネットワークについて」
1伊丹市の概要
伊丹市は兵庫県の東端に位置し、総面積25平方キロメートル、人口は約19万5千人である。古来より西国街道などの交通の要衝として栄えた。現在は、大阪国際空港のある臨空都市として、食品製造や生産用機械器具の大手企業の事務所や工場が進出している。
2安全・安心見守りネットワークについて
伊丹市では、現在の人口規模を維持していくため、伊丹創生総合計画の目標の一つに「さらなる安全・安心を実現するまち」を掲げている。以前から安心・安全のために防犯カメラをつけるべきであるという意見が出ていたことに加え、平成26年に近隣都市で子どもが被害者となる犯罪が発生した際に、防犯カメラの映像が重要な役割を果たしたことが報じられたことから、市民の安心安全は行政が責任を持つ必要があるとの市長の考えにより、市内に1000台の防犯カメラを設置することが決定した。また、防犯カメラを設置するにあたり、「市内各地に防犯カメラを設置するのであれば、徘徊している方などを見つけることができないか」との意見が挙がり、検討した結果ビーコンを活用した「まちなかミマモルメ」を導入することにしたという。まちなかミマモルメとは、子どもや高齢者の見守りのための位置情報通知サービスであり、カメラにあわせ市内各所にビーコン受信器を整備し、ビーコン発信機を見守り対象者に所持してもらうことで、対象者の居場所を把握できるものである。保護者は専用アプリを開くと、見守り対象者がいつどこを通ったかわかるようになっている。ビーコン発信機は500円玉硬貨程度の軽くて小さいものであり、電池寿命も長く、ボタン電池1個で1年以上使用できるという。このビーコンは、もともと防犯カメラ用に設置された電源・ネットワークなどのインフラを利用している。また、空白地域の解消のため、ミマモルメ移動受信器アプリを市営バスや公用車に装着することや、ビーコン受信器が内蔵された自動販売機を設置している。2022年からは、自宅に帰ったか知りたいという保護者の要望に応え、家庭用の受信器の運用も開始したという。
運営体制としては、防犯カメラに関しては市の直営で行っている。まちなかミマモルメのサービスに関しては、株式会社ミマモルメという民間会社が行っている。当時1000台のカメラを設置した時にかかった費用は約4億円であるが、国からの補助金等を活用し、実質の市の負担は2億円程度であったという。その後、令和元年に200台ほど追加したときは8000万円ほど費用がかかっている。また、耐用年数の観点から、令和6年度・7年度で1200台すべてを更新しており、総事業費としては約4億円がかかっていが、この資金もすべてを市から出すのではなく、国から補助金ももらうことを検討しているとの事であった。ランニングコストとしては、電柱使用料・ネットワーク回線使用料などで令和6年度では3300万円程度かかっているという。
安全・安心見守りネットワークの効果としては、整備前と比べ街頭犯罪認知率が減少したことに加え、市民意識調査の結果では住みやすい・住み続けたいと回答した方が、8・9割であったという。今後の課題としては、伊丹市内には多くの防犯カメラ・ビーコンがあるが、市外に出てしまった場合、行方不明者を追うことはできないことがあげられる。しかし予算などの観点から自主的に他自治体へ見守り事業が広がっていくことは難しいと伊丹市は考えている。そこで、バス、タクシー、宅急便などの民間事業者の業務用スマートフォンに受信器アプリをインストールしていただき協力いただくといった民間主導による広域化を実施しており、自治体にとっても事業者にとっても負担の少ない参画手法が必要と考えているとの事であった。今後高齢者が増え徘徊も問題になってくることが想定される中、ICTを活用した見守りを行っている伊丹市の事例は大変参考になるものであった。