岩手県花巻市「スマート農業の取り組みについて」
岩手県花巻市は、県のほぼ中央に位置し、西に奥羽山脈、東に北上高地が連なる北上平野に広がる。童話や詩で知られる宮沢賢治や、メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手(花巻東高校出身)など、多くの著名人を輩出していることでも知られる。
花巻市の農業は、平地では稲・麦・大豆の作付けが中心で、中山間・山間地域では稲作を中心に果樹などの園芸作物や畜産との複合経営など、多様な農畜産物が生産されている。
花巻市のスマート農業の取り組みは、「花巻市まち・ひと・しごと創生総合戦略」に明記された関連支援策を含む、市の重要施策の一つであり、主に4つに分類される。
1つ目は、導入環境の整備である。市が「RTK-GPS基地局」や「farmoアンテナ」を設置し、農業者が無料で情報を利用できる基盤(インフラ)を提供している。
2つ目は、関心の高い農業者の育成である。どんなに良い技術でも、農業者にメリットが伝わらなければ導入は進まない。そのため、花巻市農業振興対策本部は、実証実験や実演会を通じて情報提供を行い、スマート農業の有効性を伝えている。
3つ目は、導入への支援である。花巻市は、スマート農業機器の導入費用や技能取得を市単独事業として補助しており、令和5年度末までに161件の交付実績を上げた。
4つ目は、関係者の共通理解の醸成である。市内の154農家組合を最小単位とする集落営農ビジョンの作成・推進に加え、農業関係機関をJAいわて花巻本店敷地内のワンフロアに集約することで、施策の調整を一元化し、農業者へのワンストップ対応を実現している。
花巻市のスマート農業の取り組みは、官民連携で農業課題に取り組む、非常に参考となる事例である。
宮城県多賀城市「多賀城市立図書館について」
宮城県多賀城市は、宮城県のほぼ中央に位置し、周辺には県庁所在地の仙台市や漁港で有名な塩竈市、日本三景の松島などがある。その歴史は古く、奈良時代には陸奥国に市名の由来となった多賀城が置かれ、東北地方全体を治めていた。また、近年では仙台市のベッドタウンとして発展している。
視察した多賀城市立図書館は、約40年に渡り進めてきた市街地再開発事業の一環で、東日本大震災からの復興のシンボルとして、「東北随一の文化交流拠点づくり」を目指し、平成28年にオープンした施設である。そのコンセプトは「もう一つの家」であり、家のように居心地の良い図書館を目指している。フロアごとに役割が分かれており、1階は家族や人々で賑わうリビング、2階は居心地の良い書斎、3階は集中して過ごせる学習・研究・仕事の場がイメージとなっている。
施設の管理運営は、蔦屋書店を運営しているカルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)が指定管理を行っており、書店や飲食店、シェアラウンジを含む官民連携による一体的なサービスを提供している。特に印象的だったのはキッズライブラリーの設置である。キッズライブラリーには、授乳室や子ども用トイレだけでなく、ミニハウスや屋外テラスなど、従来の図書館にはない親子で楽しめる設備が充実している。また、市内の中学生以下の子どもたちに無償で配布している読書通帳は、借りた本の題名と日付を記録できるサービスで、子どもたちが楽しく本を読むことができる工夫となっており、読書活動の推進に大きく寄与している。
また、約26万冊の蔵書のうち約22万冊を開架している点も大きな特徴である。これだけの蔵書を開架していながらも、施設内に16台配置されているタブレット検索機を利用することで、利用者の利便性が向上していた。
これらの取り組みによって、平成27年度と平成28年度を比較すると、来館者数は約14万人から約142万人へと約10倍以上に、本の貸出数は約28万冊から約88万冊へと約3倍以上となった。令和5年度の利用者アンケートでは、「大いに満足」や「満足」と答えた割合が84.7%に達し、多賀城市立図書館が利用者満足度の非常に高い施設であることが分かった。
今後についても、アンケート結果などから、学習席や蔵書数の不足を課題と捉え、さらなる改善に取り組んでいるとのことであった。
多賀城市立図書館は、駅前という好立地でありながら、市民の文化振興や社会教育、まちづくりに大きく関わる市民交流の拠点となっており、非常に参考となる事例である。
山形県山形市「山形市売上増進支援センター(Y-biz)運営事業について」
山形県山形市は、山形県の県庁所在地であり、山形盆地の東南部に位置している。江戸時代に紅花商人で栄えた城下町の風情を残す街並みや、蔵王、山寺などの観光地を有している。人口は約24万人で、平成31年には中核市に指定されている。
山形市売上増進支援センター(Y-biz)は、全国に20カ所ある「ビズモデル」の一つとして、平成30年に開所され、山形市内にある事業所の経営支援や起業家支援を行う施設である。事業者からの相談には、ブランディングや販路開拓、ITなどに対応する幅広い専門家チームが、企業の強みを見つけ出し、具体的な課題解決策を提案する。特徴的なのは、一回限りの相談ではなく、継続的なフォローを行い、多数の新規事業や新商品を通じて売上アップの事例が生まれている点である。
事業主体は山形市で、市内の商工団体や金融機関を構成員とする山形市ビジネスサポート協議会が管理運営を行っている。令和6年度の運営費は、山形市の一般財源から5,602万円が計上されており、令和4年度までは特定財源として国庫補助金(地方創生交付金、運営費の1/2)を活用していた。令和6年4月1日から9月30日までの利用実績は、相談件数433件、相談事業者数109事業所と非常に多くの相談が寄せられている。
中でも、印象的な支援事例として、こんにゃくを製造・販売する事業者への支援が挙げられる。この会社では、元々観光客向けの商品を多数販売していたが、コロナ禍によって売上が減少してしまった。そこで、相談を受けた山形市売上増進支援センターでは、新商品を開発するのではなく、既存商品を異なる切り口で販売するアドバイスを行った。その結果、商品の魅力の見せ方を変えた「全部たべても100kcalセット」という新商品が誕生し、地域の方にも日常的に食べられる商品となった。売上も3倍に増加したとのことである。
また、珍味・おつまみの卸売業者への支援事例も注目された。この会社では、従来、男性をメインターゲットにした大容量でお得感のある商品を販売していたが、新商品開発にあたり、山形市売上増進支援センターはターゲットを女性に変更するアドバイスを行った。その結果、商品の内容を変えずにパッケージングと内容量を工夫し、女性が手に取りやすい商品に改良。「脱おじシリーズ」という人気商品が誕生し、付加価値の創出に成功した。
これらの実績から、令和5年度の評価アンケートでは、「期待以上」および「概ね期待通り」と回答した割合が97.7%に達し、利用者満足度が非常に高い施設であることが分かった。
山形市売上増進支援センター(Y-biz)事業は、中小企業への伴走型支援策として、大変参考になる事例である。