山口県光市「ペット同行避難所について」
1 光市の概要
光市は山口県の東南部に位置し、総面積 92.13平方キロメートル、人口は約4万8000人である。戦前は海軍工廠が置かれた地で、戦後は工廠跡地に進出した武田薬品工業や日本製鉄を中心に周南工業地帯の一翼を担う産業都市として発展している。
2 ペット同行避難所について
ペットは家族の一員であるという意識が浸透しつつある一方で、過去の災害ではペットを残して避難できないといったペットが避難の障壁になることや、いったん避難した飼い主がペットを避難させるために自宅に戻り災害に巻き込まれたケースなども報告されている。また、ペットのいる避難者とそうでない避難者が同じ避難所で生活すると、鳴き声や臭い、アレルギーの問題など、ペットと人が一緒に避難することで生ずる多くの課題がある。光市では、平成30年7月豪雨による災害を教訓とし、より多くの市民が安心して避難できる環境づくりの一環として、令和3年度にペット同行者専用の避難所として光テクノキャンパス研修センターを避難所とするとともに、隣接する大蔵池公園にケージを置くための冷暖房付きのユニットハウス3棟を整備した。
光市のペット同行避難所の特徴としては、ペット同行の避難者とそれ以外の避難者の避難所を、完全に分離していることである。ペット同行避難所の導入前は、自主避難はペットの受け入れは不可であり、各避難所が開設された場合は受け入れを可としていたが、屋外の軒下等での受け入れとなっていた。ペット同行者専用避難所を導入した後は、各避難所ではペット受け入れは不可となったが、専用避難所では自主避難から受け入れをしており、冷暖房が完備されている屋根付きのケージ置き場でペットは過ごすことができ、駐車スペースを確保できたことで、車中避難(同伴避難)を希望する場合にも対応できるようにした。市民からは「ペットがいてもためらわずに避難することを決められた」との声がある一方、光市で行っているのは、飼い主とペットが同じ空間で避難生活を送る「同伴避難」ではなく、ペットと一緒に避難する「同行避難」であることから、「同伴避難もできるようにしてほしい」との要望もあるという。また、光市では、市内5カ所の動物病院と、「災害時におけるペット同行避難所の運営に係る支援に関する協定」を結んでおり、避難が長期化した場合は動物の回診や健康相談を行っていただくほか、ペットフードなどの物資の供給に関しても協力いただける体制になっているという。
ペット同行避難所が1カ所となったデメリットとしては、小山市と同様に、光市には市を貫流する島田川があり、河川を跨ぐ地域はより早期の避難が必要となったことが挙げられるが、光市では令和5年度より新しく防災庁舎を供給開始し、総合防災情報システムも運用を開始したことで、気象情報等を自動的に収集し、一元的に管理できるようになり、また、河川水位や土砂災害等に対して長期的な予測を立てられるようになった。情報発信機能も強化され、市メール配信サービスや防災情報電話通知サービスなど複数の触媒に対し、避難情報等を一斉送信できるようになったことで、より市民に対して避難などの情報を早期に、幅広い方法で周知できるようになったという。
今回の視察を通し、「同行避難」と「同伴避難」の違いについて認知度が低いことや、行政と市民の間で求める対応について温度差があるのではないかと感じた。小山市でも同様の問題に直面すると想定される。この言葉の溝を埋め、家族にペットがいる方もいない方も安心して避難できる仕組みを作るために小山市でやるべきことを検討するうえで、ペット同行避難を実際に行う仕組みを作っている光市の事例は、大変参考になるものであった。
広島県呉市「先進技術を活用したスマートシティの推進について」
1 呉市の概要
呉市は広島県南西部に位置し、総面積は352.83平方キロメートル、人口は約20万人である。明治期に海軍の呉鎮守府が置かれ、東洋一の軍港として知られた。現在も海上自衛隊関連施設があり、造船・鉄鋼・パルプ業等を中心とする工業都市でもある。
2 先進技術を活用したスマートシティの推進について
第5次呉市長期総合計画は令和3年度から令和12年度までの10年間を実施期間とし、計画の中で、呉市は豊かで安心な生活が実現し、若者、高齢者、女性、障害者、外国人など、すべての人々が住みたい、住み続けたい、行ってみたいと思う、人を惹きつけるまちを目指している。
第5次呉市長期総合計画実現に向け、市民の視点に立った効率的な市政を運営するまちを目指すために、呉市はデジタル化の推進に取り組んでいる。デジタル化の基盤整備のため、平成13年より、公共施設や光通信回線未整備地域に公費補助を活用した民設民営による高速通信網の敷設を行っていたが、島しょ部の一部エリアは民間通信事業者による高速インターネットサービスの提供がない状況であった。光通信回線はSociety5.0時代に必要不可欠なインフラであることから、呉市が民間通信事業者に対して費用の一部を負担し、光通信回線の整備を行ったとのことであった。現在呉市は、この光通信回線を利用し、様々な事業のデジタル化を行っている。まず、自治体DXに向けた取り組みについては、市内全域で光通信回線がつながることを利用し、転入転出等の引っ越し関係の手続きや自転車ヘルメット購入補助申請の手続き、子育て手続きナビ・スマート申請(Graffer)など、自治体手続きのオンライン化を幅広くおこなっている。また、自治体職員の業務の効率化に向けAI・RPAの利用促進に向けた取り組みなども行っている。
また、呉市は、地域課題に対して、先端技術で解決する提案を民間事業者等から募集し、産学官で意見交換を行いながら社会実装につなげていく「スマートシティくれ」に取り組んでいる。スマートチャレンジくれは、令和3年度に民間事業者等から寄せられた約300件の提案から、実現可能性のある15テーマを設定し、民間事業者とともに社会実装に向けた検討を行っている事業である。実証実験の一例として、小型コミュニケーションロボットを活用した一人暮らしの高齢者の見守りや生活習慣の改善があるという。この小型ロボットは東京にある民間企業が開発したものであり、起床時間や薬の服薬時間になると利用者に話しかける設定や、遠方にいる家族や介護職員とやりとりをする機能を持つ。また、部屋の温度や人の動きを感知するセンサーもついており、孤独死を防ぐ役割も期待できる。利用者からは、安心感や見守られ感があり、孤独の解消につながるとの声もあるという。令和5年2月から実証実験を行っていたが、令和6年度からは実証実験で得られた知見をもとに、呉市社会福祉協議会で事業を実装化したとのことで、スマートチャレンジくれの成功例とのことであった。ただ、スマートチャレンジくれを3年実施し、一定の成果やさらなる地域の課題も出ているところで、今後どのように展開していくかが今後の課題という。しかし、人手不足や費用不足などで解決できていない地域の課題に対して、この事業を通じて改善の後押しをし、市民がデジタル化してよかったと思える取り組みにしたいことであった。
人口減少や、高齢化など小山市でも避けられない問題もあるが、急速なデジタル化では取り残されてしまう市民が出てしまうという危惧もある。まずは行政の業務効率の向上を最初の一歩とし、最終的には市民もデジタル化により住みやすいと思えるまちを目指すため、スマートシティを推進し様々な課題の検討を進めている呉市の事例は、大変参考になるものであった。
兵庫県「人と防災未来センターについて」
1 兵庫県の概要
兵庫県は本州の中央やや西寄りに位置し、面積は8400.95平方キロメートルで、人口は約545万人である。北は日本海、南は瀬戸内海、太平洋に接しており、多様な気候と風土から「日本の縮図」と言われている。平成7年1月17日午前5時46分に発生した阪神・淡路大震災では神戸市を中心に甚大な被害を受けた。
2 人と防災未来センターについて
人と防災未来センターは国の支援を得て、平成14年4月に兵庫県が設置した施設である。人と防災未来センターのミッションは、阪神・淡路大震災の経験を語り継ぎ、教訓を未来に活かすことであり、災害文化の形成に対する取り組みや、地域防災力の向上への取り組み、防災政策の開発支援を行い、安全・安心な市民協働や減災社会の実現に貢献することを目指している。
人と防災未来センターは、西館と東館に分かれている。西館にある震災追体験フロアでは、実際に阪神・淡路大震災の地震が起きたその時をCGや実写映像で再現する1.17シアターがあり、大地震のすさまじさや恐怖を体感した。また、震災が起きてから復興に至るまでの人々の様子や、直面する課題についても追体験ができる映像や、震災を風化させないため写真や震災関係の資料を体験談とともに展示しているスペースもあった。この施設は、災害ミュージアムとしての機能だけでなく、被災者の想いと震災の教訓を次世代へ継承するため、震災や防災に関する資料を継続的に収集・蓄積・解析し、防災情報を市民に分かりやすい形で整理し発信することも行っているという。また、東館には、幅広い世代が楽しみながら最新の防災知識を学び、自然災害に備える力を養うことができるBOSAIサイエンスフィールドがあり、体を動かしながら自然現象のメカニズムや自然災害について学ぶことができる。本視察では、気圧配置によりどのように台風が動いていくかのシミュレーションや、大地震に遭遇した際、どのような避難行動を行うべきかトレーニングを行うミッションルームなどを体験した。西館は震災の経験と教訓の発信をテーマにしており、東館は体験を通じて防災・減災を学ぶことをテーマにしているという。その他、実践的な防災研究と若手防災専門家の育成や災害対策専門職員の育成、災害対応の現地調査・支援も行っているとともに、施設の機能をさらに強化するため、東館に国際的な防災関係機構が入居し、国内外の連携の場となっているという。
また、幼児から高齢者までの全世代に役立つ防災の知恵を普及・啓発するために「防災絵本づくり」のプロジェクト「防災100年えほんプロジェクト」も行っている。100年先の未来まで伝えたい防災の知恵を物語に託し、数世代先の人々にも届く防災絵本を作成することを目指しており、2022年にプロジェクトの第1弾がスタートし、令和5年度に最初の3冊、令和6年度にも1冊が発行されたという。
この施設を視察し、子ども達が災害を学ぶためにとても有意義な施設であると感じた。災害は想定外な事態が発生することで起こるものであると考える。「もしも富士山が噴火したら自分は、自分のまちはどうなるだろう」などといった、もしもを想像できる豊かな心を、将来を担う子どもたちの心に育てることができれば、大きな災害が起きても被害を減らすことができると考える。人と防災未来センターは、国から復興支援金を得て建てられているため、このような施設を小山市に作ることは難しいが、修学旅行先としてこの施設を活用することや、子ども達の防災・減災に対する教育のため、防災100年えほんプロジェクトの事例を小山市でも参考にしたいと感じ、人と防災未来センターの視察や行っている事例は、大変参考になるものであった。