福岡県福岡市「AIによる水道管の劣化状況調査・分析について」
福岡市は、市域面積約340平方キロメートル、北は玄界灘を臨み、海の中道と糸島半島が抱く博多湾に面しており、南は脊振山や油山などの半月型の福岡平野に位置している。また、東アジアのほぼ中央に位置し、釜山、ソウル、上海、北京、台北などの主要都市が大阪、東京、札幌までの距離とほぼ同じ範囲内にあるため、日本国内だけではなく韓国、中国をはじめ、アジア諸国との交流にも最適である。
福岡市水道局はICTを積極的に活用することなどにより、業務の効率性と生産性を高め、迅速で利便性の高いサービスの実現を目指すため、(1)事業運営のスマート化、(2)アセットマネジメントの推進、(3)お客様サービスの向上を水道ICTの3つの柱として掲げ、事業運営のあらゆる分野において、戦略的にICT技術の活用を検討し、業務の効率性・生産性を向上を目指しており、この動きが安定経営の持続に寄与している。
ICTの活用事例の1つ目として、IoTセンサを活用した水道管漏水調査があげられ、これはIoTセンサを弁栓類に設置し、水道管に伝播する漏水音を感知し、独自のアルゴリズムで分析するものである。令和3年度に福岡市西区、博多区に52か所センサを設置し、実証実験を行ったところ、漏水箇所のピンポイントでの判定は困難であったが、面的なスクリーニング検査としては遠隔地にいながら、ほぼリアルタイムで漏水を監視できるなど一定の有効性があったが、雨風等の環境音による誤報・検出精度の低下など課題も見られた。
活用事例の2つ目として、人工衛星を活用した漏水調査がある。現状は総延長4,000キロメートルを調査員が音聴調査等で点検をしているが、調査員の高齢化や、交通量が多い箇所での点検の危険性等の課題から、従来の方法と新技術を組み合わせた方法として考えられたものである。これは、人工衛星画像やAIを活用し、漏水の可能性がある漏水リスクエリアを推定し、調査員が現地を確認するというもので、実証実験の結果、音聴調査で漏水が確認された13箇所のうち、7箇所が人工衛星画像をもとに推定した漏水リスクエリア内であったことから、スクリーニングとして効果があることが認められた。
活用事例の3つ目として、水道管の劣化予測がある。現状は道路を掘削し、埋設した一部の水道管の劣化状況を調査・分析、そこから市内全体の劣化状況を予測し、計画的に水道管を更新を行っている。予測の更なる精度向上には、相当な時間と労力を要して、掘削によるデータの蓄積が必要となるため、AIを活用し、管の埋設状況ごとの劣化進行度について時系列で予測することを目的に、全国約6,000件の調査データを用いた統計的分析と、土壌腐食のメカニズムに関する高い知見を活用し、より計画的な水道管の更新につなげていくことを目指すものである。
福岡市水道局の取り組みは、IoTセンサや、人工衛星画像の活用と、AIを活用した水道管の劣化予測を相互に行うことにより、管路を健全な状態を維持し、低い漏水率を維持できるような大変参考になる事例であった。
熊本県八代市「地下雨水調整池及びマンホールポンプにおける浸水対策について」
八代市は、熊本市の南に約40キロメートルの場所にあり、市域は東西約50キロメートル、南北約30キロメートルにわたり、約681平方キロメートルもの面積を有する。山、海、川、広大な平野と多様で豊かな自然に恵まれており、特に一級河川の球磨川、二級河川の氷川のもたらす豊富で良質な水の恩恵を受け、全国有数の農業生産地、県内有数の工業都市として発展してきた。
まず、地下雨水調整池については、北部中央雨水調整池と呼ばれ、急激に宅地化が進んだことや、ゲリラ豪雨などが原因で、地盤が低く極めて排水が悪い箇所に道路冠水被害が恒常化しており、住民の日常生活や経済活動が妨げられていたことから整備されたものである。調整池の内寸は縦39メートル、横39メートル、高さが6.1メートルであり、貯留量は7,100立方メートルとなっている。これは25メートルプール約20杯分相当となっている。熊本県内初の地下調整池となっており、地下に建設することで、地上の土地を有効活用でき、実際に地上は北部中央公園として利用されている。
次に、マンホールポンプ設備の工夫については、八代市は勾配が非常に緩やかな八代平野が広がっており、下水道配管の勾配が取れないことから、マンホールポンプ設備が多く、この設備は下水を排水するための重要な設備であることから、長期間の停止が許されないものである。運転不能になる主な要因として停電、制御盤の故障、マンホールポンプ設備の故障があげられ、それぞれの要因について対応策を検討していた。停電時や、制御盤の故障時には非常用発電機や、仮設制御盤を用いて仮復旧が可能であるが、マンホールポンプ設備自体が浸水被害にあってしまうと応急対策がなく、運転不能になることが考えられる。そのためマンホールポンプ設備の浸水対策として、国土交通省の浸水シミュレーションを元に、各マンホールポンプの想定浸水深のデータを調査・収集を行い、地上から制御盤の端子台までの高さを比較し、対応を検討することとした。想定浸水深ごとに対策区分を策定し、0から40センチメートルまででは自立ポール型の設備は基礎高のかさ上げを行った。41~100センチメートルでは、自立ポール型は次回改築時に装柱型へ仕様変更することとし、装柱型は想定水位まで設置高の調整を行った。101センチメートル以上については次回改築時に制御盤の設置場所について再検討することとした。また、制御盤内のレイアウトについても検討を行い、端子台や発電機接続用コンセント等を高めの位置に配置することで浸水リスクを軽減するなどの工夫も行っている。それでも制御盤が浸水してしまった場合を想定して、運搬が可能な仮の制御盤を作成し、浸水時でもマンホールポンプ設備を止めることがないような動きが可能となっている。実際に現場で作業を行う職員に対しても、操作研修会の実施や、マニュアルを作成するなど、不慣れな職員でも対応ができるような環境づくりがされていた。
八代市の取り組みは、浸水被害が発生してきた当市にとっても大変参考になる事例であった。
熊本県熊本市「熊本地震の被害状況及びまちなか再生プロジェクトについて」
熊本市は九州の中央に位置し、金峰山を主峰とする複式火山帯と、これに連なる立田山等の台地からなり、東部は阿蘇外輪火山群によってできた丘陵地帯、南部は白川の三角州で形成された低平野からなっている。
平成28年に発生した熊本地震では全壊家屋、半壊家屋等を併せ約14万棟が被害にあい、がけ崩れ被害や液状化被害が多く見られた。熊本城も大きな被害を受けており、現在も崩れてしまった石垣等の復旧が行われており、2052年の復旧を見込んでいるとのことだった。
現在でも熊本市の中心市街地は、狭あいな道路が多く、老朽化したビルが密集していることから、災害に対するリスクを常に抱えている地域であり、強い耐震性が求められていることから、今後いつ起こるか分からない自然災害に備え、より強靭で安全・安心なまちをつくることを目的として、まちなか再生プロジェクトが策定された。
まちなか再生プロジェクトは、耐震性の高い建物やペンシルビルの抑制、災害発生時の一時避難所の整備といった取り組みを促進し、まちなかの防災性能の向上を目指す「災害に強い上質な都市空間の創造」、ホテルや商業施設などの賑わい施設の整備促進に合わせ、快適な歩行空間や熊本城を望む景観の確保に向けて公開空地の整備を促進する「誰もが歩いて楽しめる魅力的な都市空間の創造」、防災機能を備えた高機能オフィス等の整備を誘導することで、企業立地などを促進し、まちなかの活性化を図る「いきいきと働ける都市空間の創造」の3つを項目にあげ目指すべきまちなかの姿としている。
実施施策として「防災機能強化等に着目した容積率の割増」がある。対象エリアは商業・業務等都市機能が集積し、都市基盤等のインフラが整備されている通町筋・桜町周辺地区であり、指定容積率が600パーセントの区域となっている。これまでの容積率の積み上げは、セットバック等による公開空地の確保のみを評価していたが、新たに建物の耐震性の向上や、一時避難スペースの整備などの防災機能の強化や、屋内貫通通路や屋上オープンテラスの設置などのまちづくりの取り組み、さらに、市内で不足している用途に応じた建物を整備する誘導用途の確保を加え、その整備状況に応じて評価を行い、指定容積率600パーセントに最大で300パーセントの容積率を割増すことが可能とする制度となっている。令和2年度から令和11年度にかけては、早期の建て替えを促すために10年間限定特別措置を行っており、要件はあるが、最大300パーセント割増のところを、最大400パーセントまで割増が可能となっているとのことであった。
熊本市の取り組みは、現在小山駅前の再開発が進められている本市にとっても大変参考となる事例であった。