田んぼの生物・文化多様性は守ることができるのか?
11月24日、田んぼプロジェクトの実績報告会が栃木県上三川町の民間稲作研究所有機農業技術支援センターで開かれました。
前日には、民間稲作研究所のほ場でエクスカーションが行われました。
報告会の内容を紹介します。
1 なぜ「田んぼ2030プロジェクト」か?
呉地正行、NPO法人ラムサール・ネットワーク日本(以下、ラムネットJという。)理事
呉地さんは、田んぼが価値のある湿地、田んぼには7千種くらいの生き物がいると話しました。
水田が乾田化、水田が湿地から遠ざかっている。
2008年韓国ラムサールCOP10での水田決議で、欧米の人が水田の生物多様性を理解した。
・農業湿地
・公益性の高い場所
・2つの国際条約、ラムサール条約、生物多様性条約CBD COP10
田んぼ10年プロジェクトのキックオフシンポジウムは2013年2月に小山市で開かれた。
現場の様々な取組が国際条約の実現に貢献する。
成果として、多様な主体へ呼びかけ、田んぼの生物多様性の主流化を行った。
課題として、「水田は多様」、「国内、国外で違いが大きい」ことをあげました。
田んぼ2030プロジェクトは2021年12月に小山市でキックオフ。
ラムサール条約が湿地という点の取組なら生物多様性条約は面の取組。
気候変動に配慮すると、生物多様性にしわよせがくる。
トレードオフではなく、相乗効果となるようにしなければならないと話しました。
2 「危機に晒される水田農業と生き物たち」
舘野廣幸、NPO法人民間稲作研究所代表理事
舘野さんは、有機稲作を30年以上やっていると自己紹介し、
かつては農薬の危機、今は地球環境、水田政策、無人化による危機。
地球温暖化のもとでの稲作の問題。稲はヒマラヤ由来で、低温にも高温にも弱い。
水田稲作は弥生時代に始まったが、それは地球の寒冷化による。直播は不安定な栽培。
水田稲作が始まって2千年、地球は温暖化していない、産業革命によることは明らか。
有機稲作によるメタンを大量発生させない技術がある。
稲の高温障害は、開花期に35度以上となると不稔となる。
イネカメムシは、温暖化によるカメムシの生育適正と考えるが、夕方から夜にかけて稲を突き刺して食べる。被害を受けた稲は、見た目は立派、稲穂は空、とれない。これは大冷害に匹敵する大熱害。稲刈りでなくわら刈り。8月以降に穂を出した稲はほぼ実らない。稲作を30年以上やっていて初めて。イネカメムシは、セイバンモロコシ、メヒシバ等、イネ科の雑草を好む。ひこばえも発生原因、ひこばえの発生がないように耕す。
稲わらの分解は、メタンの発生を抑制する。慣行農業でもやるが、微生物が少ないため、分解が遅い。
有機稲作のポイントは
・微生物による土づくり
・用水の確保とほ場整備
・トロトロ層の形成
カメムシの大量発生は、環境の悪化に対する害虫の警告。最大の被害者は農民である。
農業問題はすべての国民の問題である!
農業問題の解決は国民の課題、責務
すべての国民が農業を行う権利(農業権)が必要と話し、
「かえるのがっこう」の紙芝居を紹介し、カエルと共に暮らせる稲作が真の持続的農業と話しました。
3 「農林水産省の生物多様性保全の取組について」
古林五月、農林水産省大臣官房みどりの食料システム戦略グループ地球環境対策室課長補佐
古林さんは、生物多様性は農業の基盤と話し、
SDGsが採択され、みどりの食料システム戦略を策定した。
生物多様性の損失を止め、反転させ、回復基調にする。
気候変動対策と生物多様性対策は、シナジーとトレードオフがある。
農林水産業の環境対策だけでなく、業として推進すると話しました。
また、みどり戦略の概要としてその14の目標にふれ、
取組としてクロスコンプライアンス、環境負荷低減の取組の「見える化」を紹介しました。
質疑
オンラインの質問に呉地さん、舘野さん、古林さん、金井さんが答えました。
- なぜ乾田化するのか。
呉地さんは、大型機械がもぐってしまうからと話し、
舘野さんは、機械のためだけでなく、稲は、栄養成長期は湿地、登熟期は陸地性、後期に水が抜けるのが稲の生育に適正と話しました。 - 伊勢湾にマイクロプラスチックが流出し問題となっているが、削減対策は。
古林さんは、非常に大きな問題。代替肥料の開発を進めていると話しました。 - 伊賀米の値上げは、生産者に還元されているか。
舘野さんは、直接販売は農家に還元されるが、JAが買取価格を設定している場合は、なかなか農家まで還元されないとはなしました。
ラムネットJ共同代表の金井さんは、イネカメムシ対策について、冬に鳥がいろいろなものを食べている。
秋耕すると鳥が食べにくい。越冬昆虫を鳥が食べてくれないかと話し、
舘野さんは、鳥が昆虫を食べてくれるが、スズメが減っている。ツバメ、クモ、カエル、(害虫の)急激な増加には対応できない。害虫であっても、絶滅してほしいとは思わないとはなしました。
4 中間見直し「田んぼ2030プロジェクト」
金井裕、ラムネットJ共同代表
まず、金井さんから概要説明があり、
水田目標2030は次の世界目標に対して何ができるかをまとめている。
目標が22項目あり、重要課題が3つ。
1 生物多様性を育む農業のあり方
2 地球温暖化
3 農地の保全、自然共生サイト
2021年から3年間の振り返りとして
・オンラインのミニフォーラム
・第8回農業基本計画への働きかけ
・田んぼだより
を紹介し、2030年に向けて考えて行くと話しました。
呉地さんは、水田は湿地機能のある農地。メタンを減らすことに特化すると生物多様性にしわよせがくる。一番の原因は生のわらをすき込むこと。すき込まなければ、メタンはほとんど発生しない。生き物の力をうまく使って、総合的な視点で考えていくと話しました。
舘野さんは、メタンが発生する水田環境は稲にも悪い。有機栽培を進めればメタンが減るということになりうる。無施肥、緑肥や稲わらで慣行並みの収量をとれる。肥料を自給できてこその自給率100パーセント。農家が生物多様性に配慮する取組は、直接生産に結びつかないことが多い。生物配慮(のコスト)を生産物の販売だけでペイすることはできない。生産過程を通じて、国や市民に支持してほしい。農業者の生活を国が支援すべきと話しました
金井さんは、情報の整理、やってもらえるシステムの構築が必要。千葉の田んぼは収穫が早く、分解してしまうため稲わらがない。
いろんな情報を集めて、助成金がなくてもまわる仕組みをつくると話しました。
舘野さんは、スマート農業の中での生物多様性について質問し、
古林さんは、スマート農業は人口減少を支えるための技術と話し、
金井さんは、スマート農業をやっているところの生き物情報が集まるとよいと話し、
舘野さんは、人間が主体となる、人間の補助となるスマート化を進めていただきたいと話しました。
生物の多様性を育む農業国際会議 ICEBA
午後は、はじめにICEBA(アイセバ)について、コープ自然派しこくの川合さんからお話がありました。小山市では2016年に第4回ICEBAを開催しています。
川合さんは、生物多様性を基盤とした地域循環型の農業技術の確立とその国内及び国際的な普及の実現がICEBAの目標で、温暖化対策については農家の理解が少なく、秋耕の話だけでは限定的すぎるため内容の検討を重ねていると話しました。
ICEBA7の概要
- 開催日:令和7(2025)年7月12日(土曜日)、13日(日曜日)
- 会場:小松島市サウンドハウスホール
5 「マイ宣言とその後」キックオフ集会から3年
ここで司会を金井さんからラムネットJ理事の舩橋さんに代わりました。
舩橋さんは、田んぼ10年プロジェクトは2010年に名古屋で開催された生物多様性条約COP10で採択された、2020年までに生物多様性の回復をめざす20の「愛知目標」を田んぼで実践する取り組みで、すごく盛り上がった。
田んぼにまつわることでどんなことができるか。
「こんなことができます」と宣言してもらってコツコツと実行していただくと話しました。
みなさんの宣言を紹介します。
小山市
渡良瀬遊水池を守る利根川流域住民協議会、猿山さん
ラムサール湿地ネット渡良瀬、楠さん
舘野さん
よつば生協、冨井さん
冨井さんは、3年前、令和の米騒動が起きるとは思っていませんでした。むしろ、米余りを悩んでいました。
日本の農業、米生産者の危機を共有する。この現状は農家の問題では決してありませんと話しました。
川合さん
呉地さん
まとめ
金井さんは、田んぼは生き物がたくさんいて楽しいところ。
農林水産省も生物多様性を前面に出している。
ICEBAをはじめ、いろんな方のいろんな取組を聞き、一緒にやっていくとまとめました。
小山市も、田んぼという湿地の保全と持続可能な利用ができる有機稲作を推進していきます。
田んぼの生物・文化2030プロジェクト
https://tambo10.org/about
ラムサール条約
https://www.env.go.jp/nature/ramsar/conv/About_RamarConvention.html
https://www.city.oyama.tochigi.jp/kankou-bunka/miryoku/shizen-keikan/watarase/page001621.html
水田決議
https://www.env.go.jp/nature/ramsar_wetland/1/mat04.pdf
生物多様性条約(CBD)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/bio.html
愛知目標
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/aichi_targets/index_03.html
生物の多様性を育む農業国際会議 ICEBA
https://greenrengo.jp/wp-content/uploads/2024/06/369047432678a24e37c6c08d7b2abaa9.pdf